オーバー・フェンス
「オーバー・フェンス」
原作は佐藤泰志の小説「黄金の服」に収められている短編小説。
出演はオダギリジョーや蒼井優、松田翔太など、そうそうたる顔ぶれ。
永い言い訳が見たくて松竹に行ったらこの作品との2本立てだそうで。
この映画館に行ったのは初めて。
1日に行ったため2本で800円でした。
4月から社会人、平日の昼間にこうしてのんびり映画を見ることはできなくなるんだなぁなんて思って、なんだか悲しくなりました…
山下敦弘監督。作品を見るのは初めてです。
月曜日には現在k's cinemaで上映されている「退屈な日々にさようならを」の上映後トークショーでその今泉力哉監督と対談されていたこともあり、気になっていました。
煙草。缶ビール。函館の田舎町。
なんともゆったりとした時間が流れている。
登場人物たちはそのゆったりとした時間の中で、各々自由に生活している。
そんな中、主人公はオダギリジョー演じる白岩は東京から函館に戻り、職業訓練校に通いながら誰とも積極的に関わり合おうとはしない。
彼の中に過去の苦い出来事がわだかまりを作っていた。
それが蒼井優演じるホステス聡との出会いによって変わっていく。
一見穏やかで、のんびりしていて、都会にいたらまるで味わえないなんとも言えない雰囲気。
自分の意思を押し付けるやつもいれば、それをあざ笑うやつもいる、なだめようとするやつもいる、いろんな人間が同じ場所にいる。
職業訓練校にいる登場人物にはそれぞれ全く違う日常の背景があり、それぞれの生活がある。
その中で白岩の時間だけが止まっているように見えた。
彼には東京での苦い過去があった。
どうすれば良かった。どうにもできなかった。
そんな想いが、彼の心を閉ざしていた。
穏やかな空気の中に激しいシーンや衝撃を受けるシーンが出てくる。
それらは他人と関わることで白岩が変わっていく変化の起点として描かれている。
その主な象徴が聡だ。
聡の激しさ、葛藤、奇妙さ、可憐さ。
変われると思ったのに。
変わろうとする聡。
彼女に惹かれ、関わっていくことで白岩はいろんなことを受け入れ始める。
人には触れられたくないこともある。わかっていても、目をそらしてしまうことがある。
でもどこかでは変わりたいと思っている自分もいたり。
映画の中で繰り広げられる人間関係を見ていて、私は他人との関わりを諦めたくないと思った。
ぶつかってもいいと思えた。
だって、白岩は壁を越えたから。
そうしたらきっと、今までの平凡が平凡じゃなくなる。
生きていたらずっと同じなんてありえない。
受け入れて、変わって、越えていくしかない。何度でも。
なんとも言えないのんびりとした雰囲気は最後まで健在であった。
オダギリジョーだからこその張り詰めない空気、蒼井優だからこその激しい表情がそこにはあって、とても魅力的だった。
のんびりとした中にも明快さがあり、すんなりと受け入れられる、自分もまた変われるんじゃないかと思わせてくれる、そんな映画。